詩&写真 「夕影に舞う紗の袖」

アートの感性とファッションの視点で、輝きを届けるブランド『Glisten』。厳選した上質なマテリアルから、華やかでスタイリッシュな逸品へ。新たな美学の世界観を。



夕影に舞う紗の袖

秋の風が肌を撫でるたび、ふと、遠い記憶が揺らめく。
薄紅に染まる西の空の下、彼女は静かに立っていた。
群青の絹を纏い、細やかに織られた金糸の文様が夕日の光を浴びてきらめく。

袖口からふわりと漂う白檀の香。
それは、幼き頃の母の面影を忍ばせるものであり、
あの頃、長い縁側で父と囲んだ晩酌の余韻をも映し出す。

足元に広がる敷石の冷たさに、ふと我に返る。
かつて、この街を駆け抜けた日々は遠く、
背中で囁く風の音が、過ぎ去った季節の名残を運ぶ。

手にした扇をそっと開けば、
そこには小さな秋草の刺繍。
かつて恋い慕った人と、初めて連れ立った夕暮れの河畔を思い出す。
あの人も今はどこかの町で、この空を見ているだろうか。

「あなたを想うたび、風が少しだけ冷たくなるの」

そんな言葉を飲み込み、彼女は歩き出す。
ゆるやかに翻る裾が、夕闇に溶けていく。

やがて提灯の灯りが道を照らす頃、
彼女の影もまた、闇のなかに消えていく。

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秋風に揺れる衣のうねり

夜の静けさに、遠く虫の音が響く。
ひとひらの月が、庭先の紅葉を淡く染めて、
あの人の影を思い出させる。

手元の襟をそっと直し、
ゆるやかに帯を締め直せば、
その指先が、懐かしい温もりを覚えている。

風が吹くたび、袖がふわりと舞い、
かつての言葉が微かに蘇る。
「和服を纏うときは、背筋をすっと伸ばして。」
あなたの声が、今も胸の奥で生きている。

肩越しに振り返る秋の夜空、
星のひとつひとつが、
あなたとの日々を刻むように瞬いている。

そっと手を伸ばしても届かない人よ。
それでも、この衣に宿る想いだけは、
時を超えて、今も私を包んでいる。

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風にたなびく母の面影

藍に染めた袂が、ふわりと風に揺れる。
あの頃と変わらぬ、凛とした姿がそこにあるようで
思わず目を細める。

母は、和服を粋に着こなす人だった。
衿の抜き加減、裾さばき、帯の結び目——
どれも自然で、それでいて計算された美しさがあった。
それは決して華美ではなく、静かに、品よく
日常に溶け込んでいた。

「背筋を伸ばして歩きなさい」
幼い頃、母の背を追いながら何度も聞いた言葉。
何気なく交わされた会話のひとつひとつが
今になって心の奥底にしみ込んでいく。

ある朝、庭の石畳に立つ母の後ろ姿をふと見た。
朝靄の中、しっとりとした空気をまとうその姿は、
まるで一枚の絵のようだ。
長年着慣れた和服の裾が、草葉をかすめる音までが
心に染みるほど美しく、やがてそれは記憶の彼方に溶けていく。

今、私はひとり、箪笥の奥から母の羽織を取り出す。
指先に伝わる絹のひんやりとした感触が、
あの日の母を呼び戻す。
懐かしさと寂しさが入り混じる中で、
私はそっと袖を通す。

鏡に映る自分の姿に、どこか母の面影を感じる。
あの日、母が纏っていた哀愁と誇りが、
私の中にも流れている。

そよ風がそっと頬を撫でる。
どこかで母が微笑んでいるような。

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投稿者:

xs136481

写真家です。アーティスティックな写真作品を制作してます。人物ばかり撮ってます。主にヨーロッパで活動してます。世界で最もメジャーな写真祭(アルル国際写真祭)に2016年に出展してます。

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