フォトエッセイ 「終わらない問い」

「裸体を晒す侍の娘」

襖(ふすま)の隙間からこぼれる月光は
彼女の肌に冷たく、鋭く、刃のように触れる。
襟元を解いた薄衣(うすぎぬ)は
汗の匂いと夜風に混じり、
彼女の指先から滑り落ちた。

父は侍だった。
死を運命(さだめ)とする者の背中を、
幼い頃の彼女は、いつも見ていた。
剣を振るう姿に宿る美しさと、
その胸に潜む果てしない孤独。
彼女はそれを知っていた。
そしてそれを、愛していた。

だが今、
戦も終わり、
刃のない世の中で、
彼女はその肌を
何に刻むべきかを知らない。

空に浮かぶ月は丸く、
満たされているようでいて
どこか空虚。
彼女の胸の鼓動が
その空虚に、
かすかに反響する。

裸の背中を夜に晒し、
侍の娘は、
父の影から逃げるように
ひとり踊る。
その足元には、
過去の名残である刀の鞘(さや)と、
未来を知らない踊りの旋律。

この国の夜は長い。
月も星も、
ただ見つめるだけで、
何も語らない。

彼女は、自らの裸を武器とするのか、
鎧(よろい)とするのか、
まだ知らない。
だが、侍の娘の血が、
彼女の中で静かに囁く。
「生きよ。裸のままでも、剣を持ってでも。」

その囁きは、夜風よりも柔らかく、
そして鋼よりも強かった。

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投稿者:

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私は東京生まれ、東京育ちで、慶應義塾大学出身。現在は数学教師として教壇に立つ一方、写真家としても活動しています。 20歳で絵画を始め、15年前から写真表現に取り組んでいます。写真は独学で学びましたが、その表現の根底には、幼少期から親しんできた浮世絵の美意識があります。また、Sandro Botticelli や Pablo Picasso の作品からも多くを学びました。 特に、Rembrandt Harmenszoon van Rijn が生み出した光と影の表現は、私の写真における構図や空間表現に大きな影響を与えています。絵画的な視点を大切にしながら、人間の美しさや存在感を写真で表現することを目指しています。

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