霧深き駅の別れ
――エンニオ・モリコーネの感性で綴る、色褪せた青春シネマ
始発を待つ小さな駅は、朝霧の向こうに沈んでいた。
ベルも鳴らず、風だけがホームを渡る。
古びたベンチには、昨夜までの約束が置き忘れられ、
時計の針だけが静かに未来を刻んでいる。
「また会えるよ」
そう言った君の声は、
霧の中へ溶ける汽笛に重なり、
振り返ることもできないまま列車は動き始めた。
窓ガラスに映る若い自分は、
希望と不安を胸いっぱいに抱えながら、
何かを手に入れるために、
もっと大切な何かを駅に置いてきたことを、
まだ知らなかった。
歳月はフィルムを少しずつ褪せさせる。
街は変わり、
人は老い、
あの日のホームも新しい駅舎へ姿を変えた。
それでも、雨上がりの朝や、
遠くから聞こえる列車の音に耳を澄ませるたび、
心のどこかで同じ旋律が流れ始める。
言葉にならなかった想い。
伝えられなかった「ありがとう」。
そして、青春という名の短い映画。
そのエンドロールには、
誰の名前も映らない。
ただ霧の向こうで、
一本の列車がゆっくりと走り去り、
どこまでも切なく、どこまでも美しい旋律だけが、
静かに、いつまでも響き続けている。